
基板の製造から輸送、さらには組立に至るまでの全工程において、欠かすことのできない存在が「保護フィルム」です。基板表面に貼り付けられるこの薄いフィルムは、厚さわずか20?100μmほどですが、移動や保管中に発生する傷、腐食、静電気などのダメージを防ぎます。一見すると単なる「一時的なカバー」に見えますが、選定を誤ったり貼り付けを省略したりすると、PCBの歩留まりが10%以上低下する場合や、完成品に潜在的な不具合を残すことさえあります。本記事では、基板保護フィルムの役割を解説し、その重要性についてご紹介します。
製造工程における「第一の防御壁」
基板は、材料の切断から最終仕上げに至るまで、エッチング、ドリル加工、めっきなど数十にも及ぶ工程を経ます。その過程で基板が損傷するリスクを防ぐのが、保護フィルムの第一の役割です。
まず、傷防止の観点では、エッチング後の基板には線幅0.05mmの微細な配線や0.2?0.5mmのパッドが形成されますが、これらは非常にデリケートです。フィルムを貼らずに基板を積み重ねて搬送すると摩擦でパターンが損傷し、酸化や断線による不良が発生します。実際に、ある工場では保護フィルムを導入することで傷の発生率を8%から0.3%にまで低減しました。
さらに、汚染防止の点でも効果を発揮します。製造中に発生するインクや切削液などが基板表面に付着すると、後工程でのはんだ付け不良や酸化の原因になります。防水性を持つフィルムはこれらの浸透を防ぎ、品質を確保します。
輸送と保管における「環境からの守り手」
完成した基板は輸送や保管の過程で、湿度変化、化学的影響、静電気といったリスクにさらされます。保護フィルムはこれら外部環境から基板を守ります。
特に湿度の高い環境では、銅パッドの酸化や腐食が大きな問題になります。防湿性を備えたCPPフィルムを使用することで、湿気の侵入を90%以上抑え、長期間の保管にも耐えられるようになります。また、輸送時の包装材に含まれる有機酸や工場粉塵の硫化物などによる腐食も、化学的に安定したフィルムによって防ぐことができます。
静電気対策も重要です。わずか100V程度の静電気でもICチップを破壊するリスクがあるため、防静電機能を持つフィルムが不可欠です。導電性粒子を配合したフィルムは静電気の発生を50V以下に抑制し、安全性を高めます。
組立と使用時における「生産効率と信頼性の向上」
下流の組立工程でも保護フィルムは役立ちます。
SMT実装工程では、フィルムに印刷されたマークが装置の視覚認識に利用され、部品の位置ずれを防止します。また、不要な領域を一時的に覆うことで、はんだペーストの誤印刷や誤実装を回避し、リワークコストの削減にもつながります。
さらに、完成品に組み込まれた後でも、特殊な用途ではフィルムがそのまま残されることがあります。例えば、屋外LEDディスプレイでは透明で耐候性のあるフィルムが埃や水分の侵入を防ぎ、工業機器のコネクタ基板では耐摩耗性フィルムが摩擦による損耗を抑え、基板寿命を延ばします。
保護フィルム選定のポイント
PCB保護フィルムはどれでも良いというわけではありません。用途に応じた適切な選定が不可欠です。
粘着力が弱すぎると輸送中に剥がれやすく、逆に強すぎると剥離時に接着剤が残り、はんだ付け不良を引き起こします。使用環境や工程に応じて粘着力を選ぶ必要があります。また、PET、PI、PEなど材質によって耐熱性や柔軟性が異なり、工程や基板形状に応じた適切なフィルムを使うことが求められます。
さらに、透光性や着色も考慮が必要です。高精度な位置決めを行うSMT工程では透過率90%以上の透明フィルムが適しており、光に敏感な部品を含む基板では遮光性のある黒色フィルムが推奨されます。
まとめ:基板を守る「縁の下の力持ち」
PCB保護フィルムは、直接的に基板の性能を高める部品ではありませんが、傷や汚染、静電気といったリスクを抑えることで、結果的に信頼性と耐久性を大きく向上させます。正しく選び、適切に使用することで歩留まり改善やコスト削減につながります。
近年はHDI基板やフレキシブル基板の普及により、フィルムもより薄く、高精度で耐候性の高い製品へと進化しています。今後もPCBの微細化に合わせて、保護フィルムは不可欠な存在であり続けます。精密なPCBを守る最後の砦として、今後さらに重要な役割を果たしていきます。