
高周波プリント基板(PCB)の設計において、ソルダーレジスト材料の選定は信号損失を抑え、性能を最大限に引き出すために欠かせない要素です。特に、低誘電率(Dk)と低損失正接(Df)を持つ材料を選ぶことで、信号インテグリティを確保できます。本記事では、ソルダーレジスト層の誘電率の役割、低損失材料の重要性、そして高周波設計における最適な選び方について詳しく解説します。
ソルダーレジストとは--高周波PCBにおける役割
ソルダーレジストはPCBの銅配線を覆う薄い保護層で、ショート防止や酸化防止、はんだ付け時の不要な付着防止などの役割を持ちます。低周波回路でも必要な層ですが、特に1GHz以上の高周波では材料特性が信号伝送に大きく影響します。わずかな材料の違いでも信号遅延や減衰、反射などが発生するため、選定は非常に重要になります。
誘電率(Dk)が信号伝送に与える影響
誘電率は電場内でどれだけ電気エネルギーを蓄えられるかを示す値で、PCB材料全般において低いほど高周波に適しています。Dkが高いと信号の伝搬速度が遅くなり、波形歪みやインピーダンス不整合を招く恐れがあります。
一般的なソルダーレジストのDkは3.5--4.5程度ですが、5GHz以上では信号損失の原因になります。これに対し、Dkが2.5--3.0の低誘電率タイプを使うと、信号遅延や反射を大幅に低減できます。例えば10GHzの設計では、Dk4.0のレジストに比べてDk2.8の低Dkレジストを採用することで、タイミング精度を最大10%向上させられます。
損失正接(Df)と信号インテグリティ
損失正接(Df)は、電場を通過する際に熱として失われるエネルギーの割合を示します。Dfが高いほど信号エネルギーが減衰しやすく、高周波回路では致命的な影響を与えます。標準的なソルダーレジストのDfは0.02--0.03程度ですが、Df0.01以下の低損失タイプを採用することで、高速信号の減衰を20%以上低減できるケースがあります。
高周波PCBで使用される主なソルダーレジスト材料
エポキシ系:コスト効率が高いものの、Dk3.8--4.5、Df約0.02と高周波には不向きです。低-中周波向けです。
ポリイミド系:Dk3.2--3.5、Df約0.01で10GHzまでの高周波に対応可能です。耐熱性にも優れます。
超低Dk/低Df専用タイプ:Dk2.5--3.0、Df0.005以下で20GHz以上の設計にも対応できます。コストは高いですが、5G基地局や航空宇宙用途では価値があります。
高周波ソルダーレジストを活用する設計のコツ
重要配線のレジスト被覆を最小化する
RFラインなどでは可能な限りレジストを除去し、必要な場合は極薄の低Dkレジストを使用します。
基板材料と特性を合わせる
基板Dkと近いDkのレジストを使うことで、インピーダンスの整合を保ち反射を防ぎます。
プロトタイプでの事前検証
量産前にVNA(ベクトルネットワークアナライザ)などで損失や反射を計測し、性能を確認します。
実際の設計事例
28G基地局用の5GHz回路では、Dk4.0 - Df0.025のエポキシ系レジストでは1インチあたり0.8dBの損失が発生し、規格を満たせませんでした。これをDk2.8 - Df0.005の低損失レジストに変更した結果、損失は0.3dBに低減し、規格を満たす性能が得られました。
今後の動向
研究開発の進展により、Dk2.0以下やさらに低Dfを実現する新素材が登場しつつあります。また、環境負荷の低い高周波対応レジストや、アディティブ工法と組み合わせた精密塗布技術も普及していきます。こうした技術動向を把握しておくことで、より競争力の高い高周波PCB設計が可能になります。
高周波PCBにおいて、ソルダーレジストは単なる保護膜ではなく、信号損失や信号インテグリティを左右する重要な設計要素です。低誘電率(Dk3.0以下)かつ低損失(Df0.01以下)の材料を優先的に採用することで、通信、レーダー、医療機器などの高周波アプリケーションにおいて高い性能を実現できます。
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