近年、環境意識の高まりに伴い、自動車用電子基板(車載PCB)には世界各地で厳格な環境規制への適合が求められています。欧州の「RoHS 2.0指令(電気電子機器における特定有害物質の使用制限)」や「ELV指令(廃自動車指令)」、中国の「自動車有害物質及びリサイクル利用率管理要求(GB/T 30512)」、米国の「有毒物質規制法(TSCA)」などが代表的です。これらの規制では、鉛-水銀-カドミウムといった重金属や、臭素系難燃剤(PBB、PBDE)、VOC(揮発性有機化合物)などの有害物質が厳しく制限されています。業界データによると、約15%の車載PCBは環境規制を満たさないため国際市場に参入できておらず、環境適合は量産の「入場券」とも言える重要要件になっています。

無鉛化技術とめっきプロセスの最適化
重金属の制限、とりわけ鉛フリー化は環境適合の中心課題です。RoHS 2.0やELVでは、PCB中の鉛含有量を1000ppm以下、水銀やカドミウムを100ppm以下に制限しています。従来の鉛入りはんだ(Sn-Pb合金)や鉛錫めっきでは基準を満たせないため、「無鉛はんだ+無鉛めっき」の採用が不可欠です。
はんだ付けではSAC305(錫96.5%、銀3%、銅0.5%)を使用し、融点217℃に合わせたリフロー温度プロファイル(ピーク245℃±5℃)を設計することで、基材の熱劣化を防ぎます。めっきに関しては、無鉛スプレー錫(Sn≥99.3%)、OSP(有機はんだレベラー)、そして耐食性と接続信頼性に優れる無電解金めっき(Au純度99.9%以上)が主流です。ある自動車メーカーのナビ基板では、当初鉛錫めっきを使用し鉛濃度が3000ppmに達し不合格となりましたが、無電解金めっきに変更後は50ppmまで低減し、RoHS基準を満たしました。
難燃材の無臭素化
環境規制では、臭素系難燃剤の使用も大きな焦点です。RoHS 2.0はPBBやPBDEを禁止し、EU REACH規則ではHBCDを高懸念物質に指定しています。従来PCB基材に広く使われていた臭素系難燃剤(例:TBBPA)は、無臭素系への代替が必須です。現在はリン系難燃剤を使用したFR-4基材が広く採用されており、臭素含有量を900ppm以下に抑えながらUL94 V-0等級の耐燃性を実現しています。あるティア1サプライヤーでは、従来の臭素系基材で溴含有量3000ppmの空調用基板を製造していましたが、リン系FR-4へ切り替えた結果、500ppmに低減し、REACH規制とUL94 V-0試験に適合しました。
検証と認証プロセス
環境規制対応を保証するには、第三者機関による有害物質検査と環境認証が不可欠です。ICP-MSによる重金属測定、GC-MSによる臭素系難燃剤やVOC分析などが行われ、試験報告はISO 17025認定ラボの基準に従う必要があります。また、市場投入のためにはRoHS 2.0適合(CEマーク)、ELV認証、中国市場向けのGB/T 30512認証が求められます。欧州市場ではCBAM(炭素国境調整メカニズム)に基づくカーボンフットプリント報告を要求されるケースも増えています。実際にあるPCBメーカーは、全項目の環境検査を実施し、重金属含有量を50ppm以下に抑え、臭素系難燃剤不使用を確認したうえでRoHSとELV認証を取得し、欧州の大手自動車メーカーのサプライチェーンに参入することができました。