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基板厚さが電気性能に与える影響:阻抗から信号伝送までの精密コントロール
32 0 Sep 26.2025, 11:26:38

PCB(プリント基板)の最も重要な役割は、電気信号と電力を正確かつ安定的に伝送することです。その中で「厚さ」は、インピーダンス制御の精度、信号伝送損失、電流の許容能力、絶縁性能といった主要な電気特性に直接影響を及ぼす重要なパラメータです。例えば、基材厚さのわずか0.1mmの偏差が高周波ラインのインピーダンスを±3Ωずらし、設計基準の±1Ωを大きく超えてしまうことがあります。また、銅箔が薄すぎる場合は大電流での過熱や故障につながりかねません。本記事では、PCB厚さが電気性能に与える4つの主要な影響を、計算式、業界標準、実際の事例と共に解説します。

1. インピーダンス制御精度への影響:基材厚さはコア変数

PCBにおけるインピーダンスは、RF回路の50Ωや高速差動ペアの100Ωなど、信号反射や伝送効率を左右する重要な設計値です。このインピーダンスは基材厚さ(ラインとGND層の距離)に大きく依存します。

インピーダンス計算式の一例である「マイクロストリップライン」では、基材厚さ h が増えるとインピーダンス Z。は上昇します。例えば、基材厚さが0.1mm増加すると、3-5Ω程度インピーダンスが高くなります。設計値1.4mmの基材を使用するはずが、実際には1.5mmだった場合、50Ωラインは53-55Ωへと変動し、S11特性が悪化して信号効率が15%低下します。逆に基材が薄くなれば阻抗が低下し、隣接配線とのクロストークが増えるリスクがあります。

解決策としては、±5%以内の基材を選択すること、また設計段階で配線幅を微調整し補正することが推奨されます。

2. 信号伝送損失への影響:銅箔厚さと基材厚さの相互作用

信号伝送損失(挿入損失)は、基材による誘電体損失と銅箔による導体損失に分けられます。PCB厚さは、この両方に作用します。

高周波では「表皮効果」により電流が銅箔表面に集中するため、銅箔が薄いと抵抗が増えて損失が大きくなります。例えば1oz銅箔(35μm)では10GHz帯で約0.15dB/inchの損失ですが、2oz銅箔では0.12dB/inchに低減でき、約20%改善されます。

一方で、基材厚さが増えると信号の通過距離が長くなり、誘電体損失が増加します。例えば1.4mm厚基材で0.15dB/inchだった損失が、1.8mm厚になると0.18dB/inchに上昇します。そのため、低損失を目指す場合は薄い基材と広い配線幅の組み合わせが効果的ですが、機械的強度とのバランスを取る必要があります。

3. 電流許容能力への影響:銅箔厚さがキャパシティを決定

PCBの電流キャパシティは銅箔厚さに比例します。銅が厚ければより大きな電流を流せ、過熱や回路損傷を防ぐことができます。IPC-2221規格でも、銅箔厚さと電流容量の相関が明示されています。

例えば、大電流ラインに0.5oz銅箔を使用した場合、必要な2Aを流せず0.8A程度で過熱が発生し、基板温度が80℃以上に上昇します。さらに基材が薄いと銅箔が剥離しやすく、信頼性が低下します。大電流用途では、2oz以上の銅箔と1.0mm以上の基材を組み合わせるのが一般的です。

4. 絶縁性能への影響:基材厚さが耐電圧を左右

PCBの絶縁性能(耐電圧-絶縁抵抗)は、基材厚さに依存します。厚い基材ほど高い電圧に耐え、短絡や破壊を防ぐことができます。

FR-4基材の場合、耐電圧は約20-30kV/mmであり、0.8mm厚で16-24kV、1.6mm厚で32-48kV、2.4mm厚で48-72kVの耐電圧性能を持ちます。電源回路や高圧機器においては、基材厚さ不足により絶縁破壊や漏電のリスクが高まります。さらに基材が劣化すると絶縁抵抗が1012Ωから10Ωに低下し、長期的な安全性に影響を与えます。

まとめ

PCBの厚さは、インピーダンス制御精度、信号損失、電流容量、絶縁性能という4つの重要な電気特性に直結します。わずかな厚さの偏差が、信号品質の劣化や装置の故障、さらには安全リスクにつながる可能性があります。設計段階から材料選定、製造プロセスに至るまで厚さを厳格に管理することで、高性能かつ高信頼性のPCBを実現できます。


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