
プリント基板(PCB)の設計において、スルーホール、ブラインドビア、ベリードビアの選択は、アプリケーション分野(コンシューマーエレクトロニクス、産業制御、自動車電子機器など)、性能要件(信号周波数、電流容量、スペース制約)、およびコスト予算を総合的に考慮して判断する必要があります。適切なビアの選定は、基板性能を向上させるだけでなく、製造難易度とコストを抑え、「オーバースペック」や「性能不足」といった問題を防ぐ効果があります。
アプリケーションシナリオに基づく選定ロジック
産業ごとにPCBに求められる性能は大きく異なるため、最適なビア選定が重要です。
コンシューマーエレクトロニクス(スマートフォン、タブレットなど)
小型化-高密度化が最重要課題であり、ブラインドビアとベリードビアの組み合わせが一般的です。例えば、BGAパッケージ下では0.15~0.2mmの微細ブラインドビアを用いて表層と内層を接続し、表面配線スペースを確保します。また、内層電源ネットワークには0.2~0.3mmのベリードビアを採用し、スルーホールによる表層スペース消費を回避します。6層構造のスマートフォンPCBでは、「ブラインドビア(1-2層)+ベリードビア(3-4層、5-6層)」の組み合わせにより、配線密度を40%向上、基板面積を25%縮小し、軽薄化を実現できます。
産業制御(PLC、センサーモジュールなど)
高信頼性と大電流対応が求められるため、スルーホールが優先されます。例えば、電源ラインには1.0~1.2mm径のスルーホールを採用し、複数のランド接続により8~10Aの連続電流を確保します。信号ラインには0.4~0.6mm径のスルーホールを用いて安定伝送を確保します。産業用基板は長寿命(5~10年)が必須条件であり、成熟したスルーホール工法が適合します。
自動車電子(エンジン制御、車載レーダーなど)
高温耐性と耐振動性が必要であり、ブラインドビアとスルーホールの併用が有効です。例えば、77GHz車載レーダーの高周波信号ラインには0.2mmブラインドビアを採用し、信号反射を抑制します。電源ラインには0.8mmスルーホールを使い、めっき厚を40μmに強化することで高振動環境下でも信頼性を確保します。自動車用PCBはAEC-Q200規格への適合が求められるため、両者のバランスが不可欠です。
性能要件に基づく選定パラメータ
高周波信号(1GHz以上)
ブラインドビアが推奨されます。例えば、5G通信PCBの6GHzラインでは、0.2mmブラインドビア、35μmめっき厚、0.6mmアンチパッド径を設定し、特性インピーダンス50Ω±3%、反射損失-18dB以下を確保します。スルーホールは「スタブ効果」による損失増大を招くため、避けるべきです。
大電流(5A以上)
スルーホールが必須です。例えば、EV用基板で10A電源ラインを設計する場合、1.2mm径のスルーホール、2.5mmランド、40μmめっきを採用し、さらに複数スルーホールを並列配置することで15A以上の容量を確保できます。
限られたスペース(基板サイズ100mm×50mm以下)
ブラインドビアとベリードビアの組み合わせが最適です。例えば、スマートウォッチPCB(80mm×40mm)では、内層導通を0.2mmベリードビアで実現し、表層導通を0.15mmブラインドビアで確保することで、90%以上のエリアを「スルーホールフリー」とし、部品実装スペースを確保できます。
コスト予算に基づく選定バランス
ビア加工はコスト面で大きな差があります。
低コスト(~1000円/㎡)
スルーホールが最適です。機械ドリルにより低コストで加工可能であり、表面処理にはHASLを採用することでさらにコストを削減できます。
中コスト(1000~2000円/㎡)
スルーホールと局所的なブラインドビアの併用が適しています。高周波ラインのみブラインドビアを用い、その他はスルーホールで対応することで、コスト増加を20%以内に抑えることが可能です。
高コスト(2000円/㎡以上)
性能重視の場合、ブラインドビアとベリードビアを全面的に採用します。レーザードリル、樹脂充填、ENIG処理を組み合わせ、高密度実装と高信頼性を確保します。高端医療機器などではこの構造が一般的です。
まとめ
PCB設計におけるビア選択は、用途-性能-コストの3要素をバランスよく組み合わせることが鍵となります。適切なビア戦略を採用することで、信号品質、電流安定性、基板信頼性を高めながら、製造コストの最適化も実現できます。特に、5G通信、EV、自動車レーダーなどの先端分野では、ブラインドビアやベリードビアの適切な活用が競争力を左右します。