
通信分野における5G PCBの応用は「5G基地局」「5Gスマートフォン」「ミリ波レーダー」「IoT端末」に広がっております。それぞれのシーンにおいて基板に求められる性能は大きく異なり、設計段階での適切な材料選定や構造設計が不可欠です。例えば、基地局では高出力伝送と多アンテナ統合、スマートフォンでは小型化と低損失、ミリ波レーダーでは超低損失と高精度、IoT端末では低コストと低消費電力が重要な要件となります。さらに、実際の運用では「信号損失の増加」「EMIノイズ干渉」「放熱不良」などの問題が頻発し、適切な対策を講じなければ性能低下や機器故障につながります。以下では代表的な4つの応用シーンを取り上げ、5G PCBの設計ポイントとトラブルシューティングを解説いたします。
1. 5G基地局PCB:高出力 - 多チャネルを支える屋外信頼性
5G基地局は64チャネルのMassive MIMOを搭載し、100W級の高出力を扱うため、基板には低損失伝送と高信頼性が求められます。基材にはロジャース4350Bなどの低誘電正接材を用い、8?12層構造で高周波層とGND層を交互に配置することでクロストークを抑制します。また、パワーアンプ下に銅ブロックを埋め込み、真空ラミネートにより密着性を高めることで放熱性を確保します。さらに、屋外環境に耐えるため三防塗料を均一に塗布し、長期的な信頼性を実現します。
よくある問題として、PAモジュールの過熱や多チャネル間のクロストークが挙げられます。これらは銅ブロックの接合不良や層間ずれによって発生するため、工法改善やライン間隔の最適化により解決可能です。
2. 5GスマートフォンPCB:小型化と低損失を実現する終端基板
スマートフォンの主基板では小型化と高速信号伝送の両立が必須となります。10?14層構造に加え、ブラインドビア - ベリードビアを活用することで実装密度を高め、松下Megtron 6など低損失材料を採用することで3.5GHz帯の挿入損失を抑制します。また、RF領域には金属シールドを設置し、EMIを低減します。
典型的な課題は「信号損失の増加」と「EMI規格未達」です。材料をFR-4から低損失基材へ切り替え、ビア数を削減することで信号品質を改善できます。また、シールド接地を強化し、吸収材を追加することでEMI性能を大幅に向上させることが可能です。
3. ミリ波レーダーPCB:超低損失と高精度を求められるセンシング
自動車用の24GHz-77GHzミリ波レーダーでは、誘電損失を極限まで抑えた材料が必須です。ロジャースRT/duroid 5880のようなフッ素系基材を採用し、微細なマイクロストリップアンテナを高精度に形成することで、測距精度±0.1mを達成します。
一方、銅箔粗さやめっき厚さのばらつきによって挿入損失が基準を超えるケースがあります。この場合、低粗さ銅箔の採用や銀めっき厚の調整により損失を抑え、安定した動作を保証できます。また、アンテナ配線長や積層精度のずれが位相不整合を引き起こすため、設計段階から精密制御が求められます。
4. 5G IoT端末PCB:低コスト?低消費電力を支える汎用応用
IoTデバイスでは大量生産を前提とした低コスト設計が不可欠です。高Tg FR-4を基材とし、4?6層構造で簡易化することで製造コストを抑えます。また、電源ラインのインピーダンスを低減し、漏れ電流を抑制することで待機電流を削減し、バッテリー寿命を延ばすことが可能です。
代表的な問題は「待機電流の増加」と「Sub-6GHz帯の信号切断」です。電源ライン幅を拡張し、絶縁性の高いソルダーレジストを採用することで待機電流を10μA以下に抑制できます。さらに、アンテナ配線長や接地面を最適化することで通信安定性を確保できます。
まとめ
5G基板のシーン別応用においては、それぞれの用途に応じた「材料選定」「設計最適化」「製造プロセス制御」が鍵となります。発生しやすいトラブルの多くは基材選定の不適合や工法のばらつきに起因しますが、適切な改善策を講じることで性能を確保できます。通信分野における5G基板設計では、応用シーンを深く理解し、課題の根本原因を特定したうえで最適な解決策を選択することが、高品質な5G PCBの実現につながります。