
PCBにおけるアルミ基板の最大の役割は放熱であり、その設計の合理性は高出力デバイスの動作安定性や寿命に直接影響します。絶縁層やアルミ基材の選定、さらには構造設計を最適化することで、アルミ基板の熱抵抗は30%から50%削減することが可能です。さらに、熱解析(熱シミュレーション)を活用すれば、設計段階で放熱のボトルネックを予測し、後工程における設計手戻りを未然に防ぐことができます。
PCBアルミ基板の放熱原理と熱抵抗の構成
アルミ基板の放熱プロセスは「デバイス発熱 → 銅箔 → 絶縁層 → アルミ基材 → 外部放熱」という熱伝達チェーンで表されます。熱抵抗は放熱効率を示す指標であり、値が小さいほど放熱性能は高くなります。高出力デバイスが発生する熱は、銅箔(R1)を経由して絶縁層に伝わり、絶縁層(R2)を通じてアルミ基材に伝達され、最終的にアルミ基材(R3)から対流-放射-熱伝導によって外部環境へ放散されます。総熱抵抗は R_total = R1 + R2 + R3 で表され、その中でも絶縁層が50%から70%を占め、最も最適化が重要な要素となります。
R1(銅箔熱抵抗)は銅箔の厚さに比例し、18μm銅箔で約0.05℃/W、70μm銅箔で約0.02℃/Wです。R2(絶縁層熱抵抗)は厚さに比例、熱伝導率に反比例し、75μm厚でλ=2W/m.Kの絶縁層では約0.8℃/Wですが、熱伝導率を4W/m.Kに高めれば約0.4℃/Wまで低減できます。R3(アルミ基材熱抵抗)は厚さに反比例し、1.0mm厚の1050アルミで約0.03℃/W、2.0mm厚では約0.015℃/Wとなります。
放熱性能に影響する要因と最適化戦略
熱抵抗を構成する各要素を考慮し、材料選定や構造設計を工夫することで放熱性能は大幅に向上します。
まず、絶縁層は放熱のボトルネックであるため、高導熱かつ薄膜の材料を優先的に採用します。セラミックフィラーとしては、低コストで一般的なアルミナ(Al2O3、λ=30~40W/m.K)、絶縁性と導熱性に優れる窒化ホウ素(BN、λ=40~60W/m.K)、極めて高い導熱性を持つ炭化ケイ素(SiC、λ=80~120W/m.K)が挙げられます。絶縁耐圧(2.5kV/mm以上)を満たしつつ厚さを100μmから50μmに削減すれば、熱抵抗を40~50%低減可能です。樹脂は耐高温エポキシ(Tg170℃以上)やシリコーン改質エポキシを採用し、高温下での導熱安定性と絶縁層の劣化防止を図ります。
次に、アルミ基材は用途に応じて選定します。1050アルミ(λ=201W/m.K)は放熱性能に優れ、6061アルミ(λ=155W/m.K)は強度を重視する場合に有効です。5052アルミ(λ=138W/m.K)は耐腐食性に優れています。厚さは発熱密度に応じて設計し、5~10W/cm2では1.5~2.0mm厚、10~15W/cm2では2.0~3.0mm厚が推奨されます。また、陽極酸化処理(5~10μm)によって絶縁層の接着力向上と耐腐食性強化が可能です。
さらに、銅箔厚さは高電流部分で70~105μmとし、パワーデバイス周辺には覆銅開口を設計します。デバイス直下には面積2~3倍の放熱パッドを配置することで、結温を15~25℃低下させる効果が得られます。
熱解析(シミュレーション)の活用
熱解析を用いることで、アルミ基板上の温度分布を設計段階で評価でき、放熱のボトルネックを特定することが可能です。これにより物理試作コストを50%以上削減できます。主な解析ツールとしてはANSYS Icepak、Flotherm、COMSOL Multiphysicsが利用されます。
解析の基本手順は、まずCADデータ(GerberやSTEP)をインポートし、材料パラメータやデバイス消費電力を設定します。次に、デバイス周辺や絶縁層を細かくメッシュ分割し、誤差5%未満で解析を行います。定常熱解析では温度分布や熱流密度、結温を確認し、局所温度が125℃を超える場合は銅箔厚の増加、絶縁層材料の変更、アルミ厚増加、ヒートシンクの追加などを行い、再度解析を実施します。
実際の応用例として、200WのLED路灯では初期設計でLED結温が98℃に達しましたが、高導熱絶縁層と2.0mmアルミ基材、放熱パッドを導入することで78℃に低下し、試験値は80℃と解析との誤差3%以内に収まりました。また、EV用OBCでは3kW稼働時にMOSFETの結温が132℃まで上昇しましたが、絶縁層厚さの均一化により115℃まで抑制され、規格内に収まりました。
外部放熱との組み合わせによる補助設計
アルミ基板の放熱性能は、ヒートシンクや外部放熱機構との併用によってさらに最大化できます。高出力用途(15W/cm2以上)では背面にヒートシンクを取り付け、導熱グリース(λ=5~12W/m.K)を0.1mm以下で塗布することで熱抵抗を30~40%低下できます。極高出力用途(30W/cm2以上)では、ヒートパイプや均熱板を併用することで温度分布を均一化し、局所的な発熱を迅速に拡散できます。また、自然対流や強制空冷を活用することで、LED照明や高出力機器における放熱効率を2~3倍向上させることが可能です。
まとめ
アルミ基板の放熱性能は、絶縁層材料と厚さの最適化、アルミ基材の選定、銅箔と回路設計の工夫、熱解析による設計最適化、さらに外部放熱との組み合わせによって大きく改善できます。これによりPCB設計段階で効率的に結温を管理し、高出力デバイスの信頼性と長寿命を確保することが可能となります。